資金繰り表を作ろう!自営業の資金繰りが苦しいときに見直すべきこと
自営業で資金繰りが苦しいときはどうする?資金繰り表を作る重要性
自営業(個人事業)であれ、法人であれ、事業を継続していく上で、最も大切なのは資金繰りです。赤字でも倒産しない会社がある一方、黒字で倒産する会社も存在します。この差はまさに資金繰りがうまくいくかどうかという点にあるのです。本業に集中するがゆえに、ついつい後回しにしがちなことではありますが、それが原因で本業が成り立たなくなっては元も子もありません。
本来は正常な状態のときから、資金計画を作成して運用することが理想です。もしも資金繰りが苦しくなってきたと感じた場合は、早々に資金繰り表を作成して原因を究明し、対策を打つ必要があるでしょう。
そこで今回は、資金繰り表の作成方法と、自営業の資金繰りが苦しいときに見直すべきことについてご紹介します。
自営業で資金繰りが苦しい……その原因は?
「今月は支払いが多い……」「現預金が底をつきかけている……」「このままで大丈夫なのだろうか……」。自営業を続けていると、このような場面に陥ることもあるでしょう。これが一時的なもので、すぐに立ち直ったとしても、また日常の業務に忙殺されて資金繰りのことは後回しになってしまいます。しかし、後回しにし続ければ、将来的にまたピンチに陥ってしまうかもしれません。
資金繰りが悪化していると感じたら、まずはその原因を究明することが肝要です。体の不調と同じく、早期発見早期治療をすることで、完治を目指しましょう。
以下では、資金繰りが悪化する原因の中でも代表的なものをいくつかご紹介します。
経費が多い
まず典型的なパターンが、売り上げに対して経費が多すぎるというケースです。家計収支でも企業会計でも、あらゆるケースにあてはまることですが、「売り上げ<経費」というのは明らかに不健全です。
設備投資や何らかの先行投資として一時的に膨らんだ経費であれば、原因がはっきりしているため、まだ問題はないといえるかもしれません。その場合、先行投資した金額に見合うリターン(売り上げ)をどれくらいの期間で回収するか、また先行投資に充てる資金をどこから調達するかなど、中長期的な計画ができていれば大丈夫でしょう。
同じ先行投資でも、何も深いことを考えずになんとなく先行投資しただけで、「そのうち売り上げが上がるだろう」と簡単に考えている場合は、経営として成り立たなくなってしまう可能性があります。
また、固定費が売り上げに見合わない金額だったり、特に理由もないのに常に経費が過剰だったりする場合は、根本的に経営計画全体を見直すことが必要です。
売掛金が未回収
「利益は上がっているが、現金がない……」。現金商売ならいざ知らず、売掛金、買掛金の多い商売であれば、売り上げと現金の流れ(キャッシュフロー)が一致しない分、より資金繰りには注意が必要です。
売掛金を回収するタイミングをきっちり管理しないことには、現金不足で払いができずに経営が傾いてしまうかもしれません。ある程度現預金に余裕がある場合は問題ないのですが、そうでなければ売掛金の回収が遅れないように、取引先との連絡を密に取るなど、常に入金のタイミングを確認するようにしましょう。
業績不振
最も単純かつ深刻な原因は、業績の悪化です。売り上げ自体が落ちてくると、必然的に売り上げと経費とのバランスが崩れます。特に、人件費などの固定費はなかなか下げにくいものですから、「売り上げが上がらない、人件費も下げられない、資金がショートして営業活動費などがひっ迫する、余計に売り上げが上がらなくなる」という負のスパイラルに陥る可能性があります。
こうなった場合は一時的であれば借入金などでしのぐという方法も有効かもしれませんが、状況によっては人件費の削減を行うなど、事業規模の縮小が必要かもしれません。なお、最初に削減したほうが良い経費は自分自身の給料です。手遅れにならないためにも、早期に対策しましょう。
融資返済額が多い
売り上げと経費のバランスは取れていたとしても、そこに融資の返済が上乗せされると現金不足になるといったケースもあるでしょう。返済が苦しいから別のところから新たな融資を受ける、これは典型的な悪循環のため、極力避けることをおすすめします。
新たに借り入れをするのではなく、経費を見直して返済額を含めた、月々の収支のバランスを考えることが大事です。難しい場合は、債権者である金融機関に相談して、返済期間を延ばしてもらうなどの対策が考えられます。
資金繰り表を作成しよう
資金繰りが悪化したと感じた場合は、まずは原因を探るために資金繰り表を作成しましょう。
単に経費が多いのか、売り上げが上がっていないのか、売り上げを回収できていないだけなのかなど、問題点を浮き彫りにすることができます。
また、資金繰りが順調な場合であっても、経営の安定や効率化を目指すために、資金繰り表は作成することをおすすめします。 |
資金繰り表とは?
資金繰り表とは、資金の流れ(キャッシュフロー)を一目で分かるように表にしたものです。企業会計でいうところの財務諸表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)のようなものですが、どこまで厳密にするかは作成者の判断によります。
自営業者の場合、一人親方というケースも多いでしょう。そして、経理の担当者=事業主本人(もしくは配偶者)というパターンがほとんどなのではないでしょうか。その場合、すべての自営業者の方が経理の専門知識を持ち合わせているとは限りません。また資金繰り表を作成する時間も限られてしまいます。そのため資金繰り表は、なるべく簡単で分かりやすいものを作成することを心がけましょう。
資金繰り表を作成する理由
資金繰り表は、事業を継続するために必要なお金の流れを止めないようにするために作成する必要があります。お金の流れが止まってしまうと、事業の継続が困難になります。要するに会社経営でいうところの倒産状態になってしまうのです。このような事態を避けるためにも、早期対策ができるように、資金繰り表で事業の健全度を常日頃から確認しておく必要があります。資金繰り表は、事業継続のための「健康診断」といえるでしょう。
資金繰り表の作成方法
それでは、資金繰り表の作成方法をご紹介します。
資金繰り表の作成は、紙に手書きでも良いのですが、より簡単かつ便利に作成したい場合は、Excelを活用することをおすすめします。
まず、縦横の表の横軸は、「月ごと」の項目とします。要するに、2018年5月、6月、7月……と、1カ月ごとの数字が横に並ぶようにします。これで、月ごとの資金の変化が把握しやすくなります。
次に縦軸ですが、下記の1~7の項目を順に記載(入力)します。
- 前月からの繰越金
- 収入
- 現金収入
- 売掛金の回収
- 受取手形の入金
- その他収入
- 支出
- 現金仕入れ
- 買掛金の支払い
- 支払手形の支払い
- 固定経費(人件費、家賃、リース代など、項目ごとにわけてもOK)
- 変動経費(光熱費・備品費、交際費など、項目ごとにわけてもOK)
- 収入-支出(2-3)の金額
- 財務収入
- 新規(追加)借り入れの金額
- 財務支出
- 借入金返済額
- 設備投資など
- 合計収支(1+4+5-6)
以上です。
固定経費や変動経費のところに記載したように、項目を細分化することは問題ありません。事業の内容などによって重要だと思われる部分は、項目ごとに数字を出しておくほうが良いでしょう。しかし、あまりにも細かい金額にこだわりすぎるのは避けましょう。あくまでも大ざっぱなお金の流れをつかむことが目的だと認識してください。
上記の表を簡単にご説明すると、まず「2.収入」と「3.支出」で当該月の収支が分かります。「4.収入-支出(2-3)の金額」を見れば、その月の営業活動で現金がプラスになる(増える)のかマイナスになる(減る)のかが明らかになります。
次に、「5.財務収入」と「6.財務支出」で、新たに借り入れする金額と返済する金額が分かります。また、設備投資などを行う場合は、「6.財務支出」に記載することで特別な支出であることが明確になります。
「1.前月からの繰越金」と「4.収入-支出(2-3)」を合わせて、さらに追加借り入れ(5.財務収入)があればプラス、返済など(6.財務支出)があればマイナスして、「7.合計収支」がマイナスであれば対策が必要ということになります。
資金繰り表から分かること
作成した資金繰り表からは、どんなことが読み取れるのでしょうか。
以下、いくつかポイントを絞ってご紹介します。
売掛金回収のタイミング
資金繰り表を作成することで、売り上げとして確定している売掛金が(掛け倒れを除いて)、いつどのタイミングでいくら回収できるのかが一目で分かるようになります。
例えば、今月は20日に○○万円入金予定、来月は20日に○○万円入金予定、と、時期と金額が明確であれば現金の予定が立ちやすいため、支払いのタイミングなどを適切に考えることができます。
また、売掛金が支払われるタイミングが分かっていれば、万が一入金遅れがあった場合には速やかに督促するなど、適切な対応を取ることが可能です。
さらには新たな取引先と支払いに関する取り決めをする際、こちらの懐事情に合うように、期日の交渉をできるようにもなります。
買掛金支払いのタイミング
資金繰り表を作成することで、買掛金を支払うタイミングも管理しやすくなります。いつまでにいくら支払う必要があるのかが一目で分かるようになるため、支払い漏れを防ぐことが可能です。買掛金の支払いに遅延がある場合、今後の取引に影響する恐れがあるため、買掛金を期日までに支払うことは、事業継続のために重要なポイントです。
また、いざ支払いの期日になって資金が足りないという事態は避けたいものです。資金繰り表が正しく運用できていれば、資金不足になったとしても事前に分かるため、早期の対応が可能となります。
資金不足に陥るタイミング
資金繰り表を作成することで、支出する金額と収入として入ってくる売り上げ、回収できる売掛金が分かるため、資金不足に陥るタイミングを予測することが可能です。
例えば2カ月後に資金がショートすると予見できれば、経費の削減や、買掛金の支払期日の延長、追加融資などの対策を検討することができます。
なお、銀行に融資を頼む場合、依頼してから実際に融資されるまでには時間がかかるため、なるべく早めに行動する必要があります。このような判断も、資金繰り表が正しく運用されていれば可能です。
設備投資のタイミング
事業を拡大したり、老朽化した設備を入れ替えたりする場合に、設備投資が必要となる場合があります。設備投資には多額の資金が必要です。そのため、資金難に陥っている場合は、設備投資に不向きなタイミングかもしれません。機械の故障など設備投資の時期をずらせない場合を除いて、設備投資は資金に余裕があるときにするようにしましょう。
資金繰り表がないと、「預金口座にお金があるから設備投資をしよう」と判断してしまうかもしれません。設備投資後に、立て続けで買掛金の支払いが続くケースも考えられます。資金繰り表を作成することで、お金の流れをある程度は予測できるため、見切り発車で設備投資してしまうといった事態を防ぐことが可能となります。
資金繰り表を作成して経営を見直そう
今回は、資金繰り表の作成方法と、自営業の資金繰りが苦しいときに見直すべきことについてご紹介しました。
資金繰りが苦しい場合は、経費の削減や規模縮小などの対策を講じて、まずは虎口を脱することが急務です。そのためには、なぜ資金繰りが悪化しているのか、何が原因なのかを正しく理解しなければ、適切な対応をすることができません。資金繰り表を作成することで、現在の状況と問題点、さらには直近の将来予測が可能となるため、適切な対策を検討できるようになるでしょう。
また事業が順調な場合も、無計画な経営はいずれ行き詰まってしまいます。健全な経営状況下でも、資金繰り表を正しく運用することで、経営の安定化を図ることが可能です。自営業の方は、資金繰り表を自分で作成してみることをおすすめします。

CFP®・1級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士/マンション管理士/ 住宅ローンアドバイザー/賃貸不動産経営管理士 他
日本FP協会主催「くらしとお金のFP相談室」で平成29年度相談員担当
大手賃貸仲介業者に就職し、新人賞獲得。店長職を経験後、売買仲介業者として独立。不動産業を営む傍ら、ファイナンシャルプランナーとしても活動中。
住宅の取得やそれに付随するライフプランニングの設計、資産の組み換え、不動産投資、相続対策などに関しての相談業務を行っている。
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