手切れ金の相場とは?念書は必要?請求方法や対応について
手切れ金の相場は?念書は書くべき?どうやって請求・対応する?
恋愛には、うまくいく恋愛とそうでない恋愛があります。うまくいかないときは、二人とも同じタイミングで無関心になったり嫌いになったりすることは稀で、多くの場合、どちらかが心を痛めることになるでしょう。理想論としては、その失恋を糧にこれから二人が別の道で成長することを祈りながらお互い納得して別れたいところですが、現実はそうとは限りません。
別れることに納得できなかったり、悔しかったり、苛立ったりなどの感情から、パートナーを相手取ってお金を請求したくなることもあるでしょう。精神的苦痛に伴い請求するお金のことを手切れ金または慰謝料と呼びます。今回は、手切れ金の請求方法や請求された時の対処方法についてご紹介いたします。
手切れ金と慰謝料の違い
手切れ金と慰謝料、どちらも現金を渡してこれまでの関係を解消するものといった印象があるかもしれませんが、法的観点から見ると似て非なるものといえます。決定的な違いは、強制力が有るか無いかです。もし自分の身の周りでトラブルがあった場合、どちらで請求すればいいのしょうか。それぞれの違いを含めて解説いたします。
手切れ金とは
手切れ金は法的な強制力がありませんので、恋愛におけるトラブルでは基本的に誰でも請求可能となります。たとえば、自分は真剣にお付き合いしていたのに、相手からは単に弄ばれていただけで「別れてくれ」などと言われた場合に、「つらいけれども、別れてあげるからお金をください」と精神的苦痛の代償として請求することが可能です。
しかし、手切れ金を請求しても相手には支払い義務がありません。支払いを拒んでいるにも関わらず何度もしつこく請求してしまうと、逆に自分が脅迫罪や恐喝罪に問われてしまうリスクがあります。
慰謝料とは
法律系のドラマなどでもよく聞く慰謝料という言葉。慰謝料とは、精神的苦痛を伴った場合など一定の要件を満たせば法律上当然に発生し、相手が請求に応じない場合には強制執行も可能になるお金のことです。
慰謝料には法的な強制力があることから、請求できるのは法的にカップルやパートナーとして認められている間柄でないといけません。つまり、結納や結婚式場の予約をし終えている「婚約中の男女」、婚姻届は提出されていないが住民票で「夫(未届)」「妻(未届)」と記載のある「内縁(事実婚)の男女」、そして婚姻届を提出済みのいわゆる「夫婦」が該当します。
たとえ、何年交際していたとしても、同棲中だったとしても、婚約や内縁等の関係でない場合には、原則、恋愛トラブルで慰謝料を請求することはできません。
手切れ金の相場は?ケース別にご紹介
一言で手切れ金といっても、その内容は多岐にわたり全くのケースバイケースになります。浮気や不倫が原因で精神的苦痛を伴った人もいれば、殴る蹴るなどが原因で肉体的苦痛を伴った人もいるでしょう。ここでは様々なケースにおける手切れ金の相場をご紹介いたします。
妊娠、中絶
お互いの合意の下で性行為に及んでいた場合、中絶手術に伴う女性の身体的な負担や計り知れない精神的苦痛に対して請求するのが一般的であり、手術費用については二人で折半するという考え方が通例です。過去に行われた中絶を伴う婚約破棄の裁判例では概ね100万円から300万円程度の慰謝料の支払いが命じられています。
婚約中ではないカップルであれば、その半分である50万円から150万円程度が手切れ金の相場と考えられます。
ただし、次のような場合には手切れ金ではなく、法的効力のある慰謝料請求が認められる可能性もあります。
- 二人の合意がない状態で、殴る・蹴る・拘束するなど暴力に訴えて妊娠させた場合
- パイプカットをしているなどと嘘をついて性行為に及び、妊娠させた場合
- 妻子がいることを隠して交際を申し込み、妊娠発覚後に妻子持ちであることを理由に中絶を求めた場合
また、中絶手術により後遺症などを患ってしまった場合や交際期間があまりにも長い場合には、たとえ手切れ金であったとしても、通常より高額な請求になる可能性があります。
浮気、不倫
浮気や不倫における手切れ金の相場は、請求された人の経済力次第といえるでしょう。妊娠や中絶がない状態での浮気や不倫であれば、10万円から50万円程度で済むことが多いですが、社会的地位の高い人であれば手切れ金の額も大きくなりやすい傾向にあります。
なお、配偶者が不倫をした場合には、手切れ金ではなく慰謝料請求が可能になります。ただし、不倫相手だけではなく配偶者にも責任がある(共同不法行為)と考えられるため、関係を修復し夫婦関係を継続する意思がある場合、少額になるケースも珍しくありません。一方、不倫が原因で離婚を考えているのであれば、配偶者と不倫相手の両成敗が可能です。
また、別れ際にありがちな「今までのデート代やプレゼント代を返金してほしい」という要望については、既に履行された贈与契約になるため応じる必要はありません(贈与契約の詳細は後述)。
DV、モラハラなどの暴力
既に結婚している男女における家庭内暴力等の裁判例では、婚姻期間7年で子どもが1人いる家庭にて夫が妻に3箇所骨折させた事案で200万円、婚姻期間11年で子どもが1人いる家庭にて1年にわたり殴る・蹴る等の暴力を振るった事案も200万円の慰謝料が認められました。
家庭内暴力やモラルハラスメント(言葉の暴力)では、婚姻期間の長さや養育が必要な子どもの年齢および人数、被害状況等に応じて慰謝料の計算が行われる傾向にあります。
婚姻関係がなく子どもがいない状態で同棲をしているだけの関係であったとしても、このような暴力被害を受けているのであり、手切れ金の請求を考えているのであれば、1つでも多くの証拠を残すようにしましょう。
- 暴力によってできた傷やあざなどの写真
- 暴力および暴言を受けたときの状況や日時を書いたメモ
- 第三者の証言
- 実際に暴力を振るわれているときの映像やボイスレコーダーによる記録
- 医師による診断書
これらが、いざというときの証拠になります。
金銭の要求
なお、保証人や連帯保証人になっていないのであれば、相手の借金を肩代わりする必要は一切ありません。過去に借金を肩代わりした経験があると、悪徳業者などは借金を支払うよう命じるかもしれませんが、それらは何ら法的な効果はありませんし、債務を負うこともありません。
ストーカー行為
断固たる姿勢で拒絶しているにも関わらず、ストーカー行為が繰り返されるときは、ストーカー規制法にて取り締まることができますので、まずは警察へ相談してください。もしストーカーが「手切れ金をくれたらストーキングしない」などという話を持ちかけてきたとしても、被害者は支払う必要なんて一切ありませんし、被害者から「手切れ金を渡すからストーキングしないでほしい」と言う必要もありません。
悪意の遺棄
悪意の遺棄とは、夫婦関係がある状態で、民法第752条の「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」を守らなかった場合に認められます。ポイントは「同居義務」「協力義務」「扶助義務」です。それぞれの例は次の通りです。
同居義務が守られないというのは、正当な理由がないのに夫婦での同居を拒否されたり、家に帰りづらい状況を作ることです。単身赴任や入院に伴う別居、暴力に耐えかねて家を出た場合などは該当しません。協力義務が守られないというのは、共働きにも関わらず家事を一切しなかったり、健康なのに働く意思がない場合に該当します。
扶助義務が守られないというのは、配偶者に収入がないと知りながら生活費を渡さないという意味です。
相手の財布事情や子どもの人数などにもよりますが、一般的に悪意の遺棄がある場合、不倫相手と生活するために配偶者と同居していなかったり、悪意の遺棄のほかにも何かしら原因があることが多いと想定できますので、手切れ金であったとしても50万円以上は請求したいところでしょう。
参考までに平成元年の東京高判では、経営者でそれなりの生活を営んでいた夫の浮気が原因で別居するも、夫は妻にお金を渡さず、浮気相手を妊娠させたという事案で1,500万円の慰謝料が認められた例もあります。
手切れ金の請求の仕方
手切れ金を請求したい場合には、まず相手と一緒に念書などの書類を作成してもらう必要があります。なぜなら、手切れ金は一種の「贈与契約」として扱われるからです。
請求する時の贈与契約の注意点
贈与契約は、「書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない」と定められています(民法第550条)。つまり、相手が事前に「手切れ金を支払います」と言っていたとしても、手切れ金を支払う前であれば、「やっぱり支払いません」と言い換えることができるということです。
請求の仕方
上記のような事態を避けるためにも、まず念書などの書面で手切れ金を支払う旨をまとめる必要があります。念書などの書面というと弁護士などの法律家を頼るのが当たり前と思うかもしれませんが、手切れ金には強制力がないため、あまり気が進まず相談を断ってしまう弁護士もいるでしょう。
もし弁護士に断られた場合、自主的にアクションを起こさなければなりません。請求したい相手に「念書を一緒に作成し、手切れ金を支払ってほしい」旨を伝える必要があります。二人の関係が完全に終わったあとでは、連絡先等が変わってしまい伝えることすらできない可能性がありますので、そうなる前にきちんと伝えましょう。書面にする際は、次の3点をきちんと書いておきましょう。
- 二人で念書を作成日(契約日)
- 手切れ金の金額、支払いの期日、支払いの方法
- 二人の自筆のサイン
また相手に念書作成の協力を求める際、「私たちの不倫行為を会社に言いふらされたくなかったら、念書を作成しなさい」といった言い方はやめておきましょう。このようなセリフでは脅迫罪が成立する可能性もありますし、実際に会社に言いふらせば間違いなく名誉毀損行為とみなされます。
お金を受け取ったときの注意点
お金を贈与されると、通常は贈与税の対象となります。贈与税は、贈与された財産の総額が年間で110万円を超えると課税対象となります。たとえば1年間のうちに、Aさんから60万円、Bさんからも60万円の手切れ金を受け取ったのであれば、合計で120万円になり贈与税の対象となります。ただし、精神的苦痛または肉体的苦痛による損害に起因して取得した財産であれば税金はかかりません。
手切れ金を請求されたときの対応
手切れ金を請求されてしまった場合は、まず「自分はどうしたいのか」をしっかり考えましょう。
支払いたくない場合
手切れ金を請求されても自分に非が無いと感じている状態では、手切れ金は無駄なお金だと思ってしまいますし、無駄なお金は支払いたくないと考えるのが普通でしょう。
前述の通り、手切れ金に支払義務はありませんので無視しても大丈夫です。あまりにしつこく請求された場合には、「脅迫罪や恐喝罪で訴える」と伝えると少しはおとなしくしてくれるかもしれません。なお、脅迫とは、目的を問わず脅し威嚇する行為を意味し、恐喝とは、暴力や脅迫によって金銭等を脅し取るといった違いがあります。
支払う場合
自分にも非があると認めている時やこれからの人生を応援してあげたいような時など、納得した上で支払うと決めた場合には、請求してきた人としっかり話し合いながら念書を作成しましょう。念書の作成日(契約日)や二人の自筆によるサインのほか、お金を支払う条件等を書きましょう。もし喧嘩別れのような状態であれば、次のような内容を書いておけばいいと考えられます。
- 書面と手切れ金の支払いをもって、お互いの関係を完全に解消すること
- 待ち伏せやストーキング、自宅・会社への訪問等、迷惑行為を行わないこと
- 写真や個人情報、および交際していた事実をSNS等Web上に掲載しないこと
- 追加の金銭要求は行わないこと
- 手切れ金支払い後は、都度、領収証を書くこと
- 上記を守れなかった場合の対処法(返金してもらうなど)
支払ったあとの注意点
手切れ金を支払ったら、その都度、領収証を書いてもらいましょう。相手がお金を受け取った日付、金額、サインのほか、但し書きに「手切れ金○月分として」などと書いてもらうことをおすすめします。そして、その領収証は必ず保管しておきましょう。
手切れ金を請求する場合もされた場合も落ち着いて対処しよう
今回は、手切れ金の請求方法や請求された時の対処方法についてご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。
順調に交際しているときには良いパートナーだと思っていても、別れるときには可愛さ余って憎さ百倍で手切れ金を請求したくなっているかもしれませんし、逆に請求されているかもしれません。
請求時には感情的にならず、冷静に話し合わなければなりませんし、支払った場合にはあとから不当利得として返還請求をすることは事実上困難ですので、請求するときも請求されたときも落ち着いて判断するように気をつけましょう。
CFP(R)認定者/1級FP技能士
NPO法人 全国NIE.E指導委員会 講師指導委員
FPおふぃすプラスめいきっと代表
奈良県在住のファイナンシャルプランナー。幼少期はちょっぴりリッチな生活を送るも、知人の連帯保証人になっていた祖父の自殺をきっかけに家族はバラバラ、高校時代はホームレスを体験。IT業を経てFPへと転身。「お金のことは難しい」と思う人と同じ目線で分かりやすく、ひとりでも多くの人にお金の知識/知恵/知性をプレゼントする活動をしている。
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